「えごまを、もっと身近に。」 ー福島に移り住んで知った、畑の小さな宝物ー
福島県田村市に移り住んで間もない頃、地域の人たちが当たり前のように使う「じゅうねん(えごま)」という言葉を初めて耳にしました。健康食材として「えごま油」の存在は知っていたものの、実を食べる文化があること自体、それまで全く知りませんでした。
そんな私がえごまを知り、その魅力に惹かれたのは、今の仕事に就いてから行った取材がきっかけでした。都路町の畑でえごまを育てるご夫婦を取材する機会があり、植え付けから収穫まで一連の流れを体験させてもらいました。小さな粒に込められた生産者の想いに触れてからは、「この食材をもっと知りたい、もっとたくさんの人に知って欲しい」と感じたのを覚えています。
今回は、福島で暮らすことで出会えたえごまの魅力と、日々の食卓で気軽に楽しむ私なりの使い方をご紹介します。

移住して初めて知った田村のえごま
見た目はシソ…でも中身は全然ちがう!
えごまはシソ科の植物で、見た目は青シソに似ていますがまったくの別物。種には脳の活性化や抗酸化作用のある「α-リノレン酸」が豊富で、福島では昔から「じゅうねん」と呼ばれ、「食べると十年長生きする」と言い伝えられていたほど栄養価の高い食材です。
黒えごまと白えごまの2種類あり、風味や用途に少し違いがあります。黒えごまは油分が多く油搾り適した品種で、白えごまは実がやや大きく油分が少ないため、軽く煎ると香ばしさとプチプチ感を楽しめます。どちらもゴマと同じように料理に使えて、風味の違いを楽しめるのが魅力です。
日本エゴマ協会
https://www.egomajapan.com/

えごまが「ただの健康食材」ではなくなった瞬間
私が初めてえごま栽培の様子を見たのは、地元のご夫婦が丁寧に手をかける畑でした。栽培には大変な手間がかかるため、高齢化で生産者が減り、油を搾る作業も年々難しくなっている現状がありました。それでも「こんなに体に良いものを絶やしたくない」と語るご夫婦の姿に、強い想いを感じました。
風に揺れるえごまの葉を眺めながら聞いたその言葉は、移住したばかりの私に深く響きました。栄養士として働いてきた頃から「食品の栄養素だけでなく、食の背景にあるストーリー」に関心があったこともあり、「この土地で受け継がれてきたえごまを、もっとたくさんの人にも知ってほしい」という気持ちは、気づけば私自身の願いにもなっていきました。
移住前に培った経験が、新しい土地での出会いと重なり、えごまの食文化をただの健康食材としてではなく、その背景や栽培している方たちの想いも一緒に伝えたいという気持ちへ繋がっていったのかもしれません。
今日から使える!えごまのある暮らし
福島で出会った味だからこそ、郷土料理だけにとどめず、日々の料理に気軽に取り入れたいと思うようになりました。手軽に使える加工品としては、粒状の「えごまの実」以外に、「すりえごま」や「えごまパウダー」も販売されています。
すりえごまは白えごまを焙煎して粉砕したもので、手間をかけずにそのまま使えて便利です。えごまパウダーは油を搾った後の実を乾燥させて作られており、ほどよく脂質が残っているため栄養価も十分。粒子がとても細かいので小麦粉のようにサラサラしています。
こうしたえごま製品は、道の駅やJA直売所、地域の産直コーナーのほか、オンラインショップでも購入できます。使い道に合わせて好きな形状を選べるのが嬉しいですね。忙しい毎日の中で無理なく使えるものであれば、えごま料理はもっと身近になります。
ここからは私が続けやすかった、簡単にえごまを料理にプラスするアイディアをご紹介します。
【えごまパウダー】どんな料理にも使える魔法のひとふり
「えごまパウダー」には、カルシウムや食物繊維も豊富に含まれています。油分が抜けてサラサラとしているため、ふりかけのように気軽に使えるのが一番の魅力。我が家では瓶に入れて常備して、味噌汁やヨーグルトに混ぜたり、白玉粉に少量加えて風味付けに使ったりしています。

【すりえごま】仕上げに入れるだけで味が決まる!
焙煎して粉砕した状態で売られている「すりえごま」は、和え物や炒め物の仕上げに加えると、食材の余分な水分を吸ってくれるため、香ばしさも加わり料理のアクセントになります。えごまが苦手な子どもでも食べやすく、手軽に栄養がプラスできるのもうれしいポイントです。

【えごまの実】親子で楽しむ「すりすり時間」とプチプチ食感
「めんつゆ+すりえごま」は、我が家の夏の定番。乾煎りした白えごまをすり鉢ですり、そのままめんつゆを注ぐだけで完成、いつものそうめんがぐっとおいしくなります。すぐに使える「すりえごま」よりひと手間掛かりますが、煎りたての香ばしい香りと、プチプチ食感はえごまの実でしか味わえません。すり鉢でする作業をお子さんと一緒に楽しむのもおすすめです。
ひたむきな手仕事が支える、地域の宝物
えごまは栽培にとても根気が必要な作物です。畑でその作業を間近で見ると、生産者のご夫婦が「手をかける理由」がよく分かります。
種まきは5月の終わり。芽が出たあとは雑草との闘いが始まります。小さな苗が負けないよう、畑に腰を落として黙々と除草を続けます。「この時期が一番大変。でも、ここで手を抜くと収量に響くんだよ」とお父さん。まるで子どもを育てるように、毎日畑を見に行くのだそうです。
夏が過ぎて背丈が伸びてくると、「摘心」という作業が必要になります。茎の先を摘み取って枝数を増やすことで実が増えるのですが、株ごとに状態を見極めながら行うため、まさに根気のいる仕事。苗の油でいつの間にか、手袋をしてても爪の先や指が真っ黒になります。
秋になり、葉が黄色く穂が茶色に色づいてくると収穫の合図です。ただ、そのタイミングは非常に難しく、ほんの一週間で最適期を逃してしまいます。鳥に食べられたり、風で落ちたり、早すぎても遅すぎてもダメ。毎日実の変化を見つめ、最良の「その日」を見極めます。
収穫後は乾燥・脱穀・選別。ブルーシートの上で豪快に枝を叩けばパラパラと小さな粒が落ち、ふるいにかけ、唐箕(とうみ)でゴミを飛ばします。その後、広げて乾かし、水洗いを繰り返し、再び乾燥。最後は手作業で虫や小さなゴミをピンセットで取り除くという、気の遠くなるような作業が続きます。
それでもご夫婦は「手間のかかる作物だけど、だからこそ愛おしい」と笑い、きれいに選別されたえごまの実を手のひらで転がします。
料理に使うときはほんのわずかでも、その小さな粒には生産者さんの手間と、地域の食文化を守りたいという想いがぎゅっと詰まっています。えごま畑を見るたびに、その「地域のチカラ」を強く感じます。えごまを手に取るとき、そんな背景もふと思い出してもらえたら嬉しいです。

小さなひとさじから、福島の風味を。
手間ひまかけて育てられるからこそ、えごまには味にも想いにも深みがあります。
直売所やオンラインショップなど、えごま商品を見かけたらぜひ試してみてください!
小さなひとさじから、食卓に福島の風味をプラスしてみませんか?
・直売所「JA福島さくら農産物直売所ふぁせるたむら」
https://life.ja-group.jp/farm/market/detail?id=975
・オンラインショップ「ふくしま市場」
https://fukushima-ichiba.com/products/c002a09?srsltid=AfmBOoq-JZ1oh1zfeMhazQpDvCvlMnsNcjxMmpjnwq1Sa5S_Wy0GXxMh
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